水害の被害にあった特養について

介護

このたび、九州地方の大雨で、川が氾濫し、多くの方が命を落とされました。

亡くなられた多くの方に、心よりご冥福をお祈り申し上げます。また、被災された多くの方にお見舞い申し上げます。

特に氾濫した河川の近くにあった特別養護老人ホームで、多くの入所者の方が亡くなられた件について、痛ましく思っております。

この特養に濁流が押し寄せてきたのは4日朝、職員は談話室に利用者を集め、様子をうかがっておられたそうです。

しかし濁流が押し寄せてきてから避難を始めたものの間に合わず、利用者さんを2階に移動させようとするも浸水から水位が上昇するまでほとんど時間的猶予がなかったとのことです。

自分の足では歩行できず、車いすを使っている利用者さんをテーブルに乗せるなどしましたが、1階はほとんど天井まで水に浸かってしまったと新聞記事にありました。

住民の方々が窓を割って助けに来られましたが、利用者さんの命を救うことはかなわなかった。14人の利用者さんが亡くなられました。

避難を手伝っていた近くに住む70代の男性の方が、テレビでインタビューに答えておられました。とても辛そうでした。職員の方も、目の前で利用者さんが浸水に飲み込まれていく姿を目撃されています。

その時のお気持ちは如何ばかりかと、心中察するにあまりあります。また、ご遺族の悲しみやご本人様の無念も考えるととても言葉にできないものがあります。

この件を報じたニュースですが、メディアのTwitterアカウントには「早く避難できなかったのだろうか」というリプライもありました。

なるほど、結果論として、早く避難をしていれば助かる可能性はあったかもしれません。そういう意見は簡単に否定できるものではないでしょう。

ですが、個人的意見として恐縮ですがこの件で私は施設の対応を責めることはできません。

確かに施設は利用者さんの命を預かっているのですから、様々な可能性を想定し早めに避難ができれば望ましいでしょう。

しかし河川との位置関係によっては考えている以上に早く水が押し寄せてきます。時間帯も深夜から未明にかけてです。

このコロナが危惧される時期に、多くの利用者さんを抱えていったいどこに避難をするのでしょうか。

特養なのですから要介護3以上の方が入所されていることになります。その方を多くつれて避難場所にたどり着くには、リスクが想定されます。降りしきる雨の中避難場所にたどり着いたとして、そこに介護に必要なオムツや衛生用品はあるのでしょうか?

認知症の方の対応をどうするのでしょうか?嚥下能力が低下した方に必要なトロミ剤や、ペースト食に対応する設備はあるのでしょうか?

それを考えると安易に施設を離れる決断をすることは、難しいでしょう。

なぜ水に浸かりやすい地域に施設があったのかとか、エレベーターや高層階のない設計は不備であるとか、いろいろなことを言っている方もおられるようですが、そこは施設の経営状況まで考えないと判断ができないところではあります。

グーグルアースを見てみると、川から離れると今度は山が見えました。山付近に建設すると、それはそれで土石流のリスクがあるのではないでしょうか。

過去の介護施設の被災の例を見てみると、近隣に同じ法人が運営している施設がありそこに避難してことなきを得た例もあるにはありました。この施設の場合は近隣に同じ法人が運営している小規模多機能もありましたが、近すぎてそこに避難するにしてもリスク回避にはならないかと思います。

昨今では気候変動の影響もあり、ハザードマップも作成されています。降雨量の予測だって精度が上がっています。河川の増水の状況だって、ネットを使えば得ることができます。しかしそれがどこまで、素人が災害の規模を予測する役に立つというのでしょうか。想定は大事だし、日ごろから災害時のことを考えておくのは大事です。否定はしません。

ですが、それを使えば事態を正確に予測し、正しい対応ができたはずだと言ってしまうのは、人間の能力を過信しすぎです。できたはずだと後になってから言うのは、少し違うのではないでしょうか。

今回の件、施設に何も落ち度がなかったと言いたいわけではありません。私の知らないいろいろな要素が関与しているでしょう。

ですが、特養の職員さんが、利用者を救うためにどれだけ奮闘されたか、救助されるまでどのような想いでおられたか考えると、とても非難の言葉をかける気にはなれません。

今回は人命が失われており、同じようなことが起きないよう、対策を講じる余地はあるでしょう。それは施設の建設の要件を厳格化することであったり、自治体と事業者とのリスクを想定したシミュレーションを共有したり、治水を強化したり、いろいろあるはずです。ただ、まず先に施設の落ち度を追求するのは、そうするのは自由であるにせよ、配慮が欠けているのではないかと考えるところです。

今回の記事は、あくまでも亡くなった利用者さんやご遺族の想いを軽視するつもりで書いたわけではありません。利用者さんや職員の命をどう守っていくか、介護業界全体として考えていく必要があると思っています。

自治体としても、建設を予定していた川辺川ダムの計画が凍結となり、住宅のかさ上げなどを検討していたようです。もっとも、一度建設したものをまた造り直すことだって大変なことですね。

今後も水害や地震等の被害は、この国に生きている以上何度も起こりうることですから、真剣に向き合いたいものですね。ちなみに、ダムの緊急放流で被害が拡大することはありません。ダムの容量がいっぱいになった時は流れ込んでくる水の量と同じだけ放流するのですから、ダムがなくても同じ規模の洪水が起きます。ダムが水をせき止めているから氾濫するにしても時間稼ぎができているのですから、緊急放流を非難するのも筋違いと言えるでしょう。

いずれにせよ対策がしっかりと練られて欲しいものです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました