『看取り④』

介護

滞りなく進む会議というものは、決して司会進行の力量だけでなされるものではない。

参加者が明確な目的を共有する時は、多少進行が拙くともすんなりと進んでいくものだ。

今日のカンファレンスでは水嶋さんの病状、今後の予測と対応、退院して向こう1週間あまりのスケジュール、全てが次々に決まっていった。

「訪問看護が入るにしても、病状が進んでから介入するのはとても難しいものなの」

帰りの車中、音無主任は静かに口を開く。

「どうしてもっと早くに私達を呼んでくれなかったの?そう思うケースもある。もちろんどんな場合でもできることはする」

水嶋さんは何度か手術を経験していて、体調が安定しないなか入浴を安全に行うために訪問看護を利用していた。

今回はそれが幸いしている。

病状に急変があった場合はまず訪問看護に連絡する。これが今回のカンファレンスで何度も確認されたことだ。

緊急時訪問看護に対応している訪問看護ステーション柏は、看護師が24時間対応の緊急連絡用の携帯をいつも持ち歩いている。

契約している利用者に何かあった場合は電話での相談、指示を行う。必要なら訪問する。緊急搬送の手配も行う。

ターミナルでの療養は医療サービスのニーズがとても高い。ただサービスを提供する事業所があればよいというわけではない。関係性の構築が大事だ。

体調が悪化してから初めて訪問看護を導入しても、関係性が育っていない。

私達は最期まで水嶋さんの希望に応えられるだろうか?いやなにがあっても全力を尽くさなければならない。

「車を停めてくるから先に降りて」と言う音無主任に礼を言い、私は歩き出す。

「あまり気を張りすぎないように」

後ろから音無主任の声が聞こえ、私は振り向いた。その時既に音無主任はアクセルを踏んで駐車場に走って行く。

思わず拳を固く握りしめていたことにその時になって気づいた。思った以上に緊張してしまっていたようだ。

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