小説

介護

「あ、帰って来た」 水貴が事務所に戻ったのは6時少し前。就業時間は過ぎていたが、倉柳と井上は請求の最終チェックをするべく、デスクの上にはまだ書類の束が山と積まれている。 「お疲れ」と倉柳は水貴に一瞥をくれ、短い労いの言葉をかけ...
介護

『涙』④

−ユニバーサルベッドの東田です 「松原です。番場様の件で相談なんですが、お時間大丈夫ですか?」 −大丈夫です。入院されたと聞いてましたが退院ですか? 「今、ご自宅に帰られてます。急なことですが退院なんです。退...
介護

『涙』③

「来月の予定表です。利用票も保管しておいてください」 水貴は鞄から書類を取り出し、番場に手渡した。ケアマネが作成する利用票という書類は利用者に確認してもらい、交付する決まりだ。 「はいどうも。いつもありがとう」 書類を受...
介護

『医療保護入院』④

柳光明病院の入り口前、松原水貴は約束の時間の15分前に到着する。 水貴は、早く着くのが嫌いだ。2時に訪問する約束をしていれば、2時丁度にならないと玄関のチャイムを鳴らさない。待ち合わせる場合は、5分以上前に着かないようにと自分の中で...
介護

『医療保護入院』③

反町貴子のケースは、進展しなかった。 統合失調症であることは、ほぼ疑いようがない。一度だけとは言え、精神科の専門医にもつながった。保健所のバックアップも入ってくれている。 万が一自分で自分を傷つけたり、暴れたりすれば、措置入院...
介護

『医療保護入院』②

「皆さんで、母を説得して病院に連れて行ってもらうことはできないのでしょうか?」 反町貴子の娘、灰原の言葉を聞き、一同はしばし沈黙する。 「本人が納得してないのに入院させるのはちょっと抵抗があるというか…」 センター長の長...
介護

『医療保護入院』

手詰まりだな。 心の中で水貴はつぶやき、苦虫を噛み潰したような顔になる。水貴は包括支援センターの長澤と井上の元に報告に訪れていた。 事の次第を聞いた長澤も、腕を組み難しい顔をするしかなかった。 「せっかく松原さんが病院に...
介護

『暗礁』

「それで母は病院に行くと?」 受話器から聞こえてくる声は穏やかで、それでいて少し戸惑っているようでもある。松原水貴は、反町貴子の娘に電話をかけていた。 反町を説得し、精神科に一度連れて行けば全てが解決するわけではない。受診でい...
介護

『精神科』

反町貴子の支援は難しかった。 水貴が定期訪問で訪れると快く応対してくれる。悪い感情は抱いていないらしい。 だがヘルパーに対しては被害妄想が続いていた。週に1回は事務所の電話が鳴り「ヘルパーがお皿を持って帰った」と、物盗られ妄想...
介護

『精神疾患』

地域の居宅介護支援事業所(ケアマ事務所)、スマイルあおいサポートが閉鎖するという報せが松原水貴のもとに届いたのは、その日の就業時間が終わろうかという頃だった。 きっかけは地域包括支援センターから入った一本の電話だ。 「閉鎖とは...
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