小説

小説

ウザ絡み

「家族さんどうだった?息子さんはイケメン?」 出し抜けに井上が聞く。 軽口で場を和ませようとしているのだろうが、とてもそんな気分にはなれなかった。 「まあ、顔が悪いとかそういう訳じゃないんですけど、なんて言うか…...
介護

「あ、帰って来た」 水貴が事務所に戻ったのは6時少し前。就業時間は過ぎていたが、倉柳と井上は請求の最終チェックをするべく、デスクの上にはまだ書類の束が山と積まれている。 「お疲れ」と倉柳は水貴に一瞥をくれ、短い労いの言葉をかけ...
介護

『涙』⑤

ケアマネにとって、実績の入力をする時期は戦場である。いや、ケアマネでなくても介護の事業所にとっては月末月初は多忙を極める。 「はい…。区分変更の結果がまだ出てません。市役所にも確認しました。…はい、ですので今月の請求は保留ということ...
介護

教育係

「異動?」 「そう。異動」 3人は事務所から離れた居酒屋にいた。管理者の倉柳から居酒屋に誘われるなんて珍しいこともあるのだなと、水貴は思っていた。仕事が終わってから水貴と倉柳は2人で居酒屋に入った。個室に通されたら、そこに座っ...
介護

『涙』④

−ユニバーサルベッドの東田です 「松原です。番場様の件で相談なんですが、お時間大丈夫ですか?」 −大丈夫です。入院されたと聞いてましたが退院ですか? 「今、ご自宅に帰られてます。急なことですが退院なんです。退...
介護

『涙』③

「来月の予定表です。利用票も保管しておいてください」 水貴は鞄から書類を取り出し、番場に手渡した。ケアマネが作成する利用票という書類は利用者に確認してもらい、交付する決まりだ。 「はいどうも。いつもありがとう」 書類を受...
介護

『涙』②

前回 「番場さん…」 水貴が連絡して1時間もしないうち、訪問看護ステーション、ラフィネ訪問看護から2人の看護師が番場宅を訪れた。ラフィネ訪問看護は地域での看取りや難病の支援など、あらゆる事例を引き受けている。経験の...
介護

『涙』

松原水貴は焦っていた。 「母が今日、退院することになりました。ガンが内蔵に転移していて、もう手の施しようがないと言われたんです。 そして母はどうしても自宅に帰りたいと…。 医師は「この状態で自宅に帰るのは危険です。いつ何...
介護

『医療保護入院』④

柳光明病院の入り口前、松原水貴は約束の時間の15分前に到着する。 水貴は、早く着くのが嫌いだ。2時に訪問する約束をしていれば、2時丁度にならないと玄関のチャイムを鳴らさない。待ち合わせる場合は、5分以上前に着かないようにと自分の中で...
介護

『医療保護入院』③

反町貴子のケースは、進展しなかった。 統合失調症であることは、ほぼ疑いようがない。一度だけとは言え、精神科の専門医にもつながった。保健所のバックアップも入ってくれている。 万が一自分で自分を傷つけたり、暴れたりすれば、措置入院...
タイトルとURLをコピーしました