民意に基づく司法は一つ間違えば現代の魔女狩り

社会
雪乃
雪乃

いつもありがとうございます。裁判員制度って結構前に導入されましたね。私の身内も候補になったことを通知する郵便物が届いていました。

司法に、民意を導入しようとするのが正しいかであるような意見が散見されます。裁判員として参加するのはちょっと・・という方が多いかもしれませんが、何らかの形で、司法の現場に民意を導入することが正しいことであるということは、社会の暗黙の前提であるかのようです。

しかし、私はそれは違うと思いますので、多くの方からご批判を頂く可能性が高いと承知の上で、今日の記事を投稿します。

司法の独立と裁判員制度

裁判員制度ってありますね。くじ引きで抽選された国民が裁判に参加するやつですね。

導入される前に、喧々諤々の議論がありました。

ですが、結局のところ司法に民意を反映させるのは正しいという判断が下されたそうです。

結構騒いだのに、その後どうなったかあまり語られませんね。

私もあまり詳しく調べていませんでしたが、どうも裁判員裁判による判決の中に「障害を持つ被告人が、『この人は刑を終えて社会に出ても居場所がないから』と重い刑期を科された」という判例があったようです。

司法について詳しい人は、裁判員が参加した裁判などあてにならないので、控訴審にかけるしかないと仰っていますね。

確かに、司法は世論が納得のいく判決を下せなかったことがあるでしょう。裁判官の知識不足による偏った判決もあったことでしょう。ですが、だからといって法の素人である一般人を裁判に参加させて解決しようというのは違うのではないでしょうか?

なんでも民意で解決しようという考え方のベクトルが疑問です。

「検察官を選挙で選ぼう」というご意見について

介護業界のインフルエンサー様が、「検察官を選挙で選んではどうだろうか」という意見を投稿されていました。

検察官とは公務員ですね。警察で取り調べを受けた被疑者は、検察官でさらにくわしく事情を聴取され、そのうえで起訴されるかどうかが決まるという仕組みだったはずです。

『HERO』というドラマで木村拓哉氏が演じていたのが確かそうでしたね。

裁判でも民意、裁判を受ける前でも民意ですか。民意で何が解決するのでしょうか。そもそも検察官は司法試験に通らなければなれませんね。

相当の専門知識を要する仕事だと思いますが、それを選挙で選ぶって必要なんですかね。

その人が法律に関する知識を身に付けているかどうか、有権者はどうやって判断するんでしょう?

言葉巧みに有権者を惹きつける演説が出来れば当選、晴れて検察官ですか?

まあ、深く考えて言っているわけではないのでしょう。選挙で選ぶと言えばウケるとでも思っているのでしょう。

しかし、ここで何度も否定しますが

司法に民意って、どこまで『直接的に』反映させる必要があるんでしょうね。

繰り返しになりますが、民意で人を裁くって危険なことだと思います。中世の魔女の火あぶりみたいなもんでしょう。

ここでは、ドラマからセリフを引っ張ってこようと思います。

『リーガルハイ』という弁護士が主人公のドラマです。主演は堺雅人氏です。

ここからはネタバレになりますので、本編を楽しみたい方はブラウザを閉じてください。

堺雅人氏が演じる古美門(こみかど)弁護士は、法廷で検察官と争います。裁判には裁判員が参加しています。

検察は被告人の有罪を証明しようと証拠・証言を提示します。しかし、古美門氏は信憑性が疑わしいと疑問を呈します。

被告人は嫌われ者だったようです。検察は世論も被告人を処罰するべきだと望んでいると主張します。

しかし、古美門氏はそんな検察を厳しく非難します。

以下はセリフの抜粋です。

古美門「人は見たいように見る、聞きたいように聞く。検察だってそうでしょう?」

検察「侮辱だな」

古美門「ええ、侮辱したんですよ。証拠によってではなく民意によって起訴したんですから。」

検察「我々は公僕だ。国民の期待に応えるのは当然だ」

古美門「愚かな国民の愚かな期待にも応えなければならないんですか?」

検察「愚かですか」

古美門「ええ愚かで醜く卑劣です」

検察「傲慢極まりない」

検察「私は美しく誇り高い国民だと思っている」

古美門「美しく誇り高い国民が証拠もあやふやな被告人に死刑を求めると?」

検察「本件の場合、有罪であるなら極刑がふさわしい」

古美門「生命はそのものに与えられた権利です。それを奪うことは許されない。それを奪うのはたとえ国家であっても人殺しです」」

検察「あなたが死刑廃止論者とはな」

古美門「いいえ意外じゃありませんよ。目には目を歯には歯を。殺人には殺人を立派な制度だ。ただ人知れずこっそり始末するのは卑劣だと言っているんです」

検察「白昼堂々やれとでも?」

古美門「その通り。白昼に青空の元、市中引き回しにして磔にして火あぶりにして皆で一刺しずつさしてやり首をさらし万歳三唱した方がはるかに健全だ。だが我が国の国民は自らが人殺しになる覚悟がないんですよ。

自分たちが明るいところにいて、誰かが暗闇で社会から消し去ってくれるのを待つ。そうすれば死刑についてもう考えなくて済み、この世界が健全だと思えるからだ。違いますか?」

出典:ドラマ『リーガルハイ』

この引用の最後の部分は、民意がいかに当事者意識を欠いたまま被告人の死刑を求めているかを指摘したものだと思います。

そして民意についてのやり取りが始まります。

検察「仮にそうだとしても、だがそれも民意だ

古美門「民意なら何もかも正しいんですか?」

検察「それもまた民主主義だ」

古美門「裁判に民主主義を持ち込んだら司法は終わりだ」

検察「果たしてそうかな。いささか古いな」

検察「法は決して万能ではない。その不完全さを補うのは何か・・・人間の心だよ。罪を犯すのも人間。裁くのも人間だからだ。多くの人々の心に寄り添い、司法という無味乾燥なものに血を通わせることが正しい道を照らす。裁判員裁判はその結実だ。そして本件において人々が下した決断は、被告人を死刑に処するべきだというものだ。愛する家族と、友人と、子供たちの健全な未来のために!これこそが、民意だ」

(拍手をする傍聴者)

古美門「・・素晴らしい、さすが民意の体現者、醍醐検事。

いいでしょう。死刑にすればいい。

…確かに安藤貴和は社会を蝕む恐ろしい害虫です。駆除しなければなりません。次にねとられるのはあなたのご主人かもしれませんからね。

あなたの恋人かもしれないし、あなたの父親かもしれないし、あなたの息子さんかもしれない。あるいはあなた自身かもしれない」

古美門「死刑にしましょう。

現場での目撃証言はあやふやだけど死刑にしましょう。被告人の部屋から押収された毒物が犯行に使われたか確たる証拠はないけれど、死刑にしましょう。

証拠も証言も関係ない。

高級外車を乗り回し、ブランドを身に着け、フカヒレやフォワグラを食べていたのだから死刑にしましょう。

それが民意だ。

それが民主主義だ。

なんてすばらしい国なんだ。

出典:ドラマ『リーガルハイ』

少し省略して古美門氏の主張の重要な点を抜粋します。

みんなが賛成していることなら全て正しい。

ならば皆で暴力を振るったことも正しいわけだ。

私のパートナー弁護士をよってたかって袋叩きにしたことも民意だから正しいわけだ・・

冗談じゃない・・・
冗談じゃない!!!
本当の悪魔とは巨大に膨れ上がった時の民だよ!

出典:ドラマ『リーガルハイ』

民意による裁きというのは、怖ろしいものであると思います。

これはフィクションの話としてこの話のようなことが現実に起きるのだと言っているわけではありません。

ですが、民意民意と言うのは民主主義が失敗する可能性を失念しているのではないかと思います。

ドイツの独裁者を生み出したのも民主主義です。

そして、民意を無視せよと言っているわけではありません。

なんだかんだで民主主義を採用しなければいけないのはわかっています。決して最良の制度ではないにしても、他により良い選択肢が現実的にあり得ないから民主主義が採用されているのです。

国民は選挙権を行使し、立法に影響力を及ぼします。

投票ではなくても、選挙に勝たなければ政治家になれないのだから、政治家は国民の声を聞く動機があります。政治家への意見は言ったっていいでしょう。

ですが、行政に民意を反映させろと行政に直接要求するのは違います。

ある官僚はこんなことを言いました。

「この厳しい時代には、たとえ世の中から反発されたって言わないといけないことがある。

でも企業は利益を上げないといけない。政治家は選挙に勝たないといけないからこそ言えないことがある。そんな時に批判を覚悟でモノが言えるのは、官僚だけだ」

もちろん、官僚だって無謬ではない。だからこそ数々の失敗がありました。文化の振興策は官が絡むと大概上手くいかないとか言われたりします。

だからと言って「世論で行政を動かせ」とやっていたら、ますます官僚はその専門性を活かせなくなるだけです。

世論によって干されるのを怖れて、口をつぐむことだってあるかもしれません。そうなると、政治家と一緒です。

裁判官も検事も民意で選びましょう。行政も民意で動かしましょう。じゃあ民意が間違っていた時に、修正するのは誰ですか?

民意が間違う時だってあるからこそ、司法も行政も独立しているのです。

国民主権国家の我が国では、専制権力を誰かに与えるのは、世論であり民意である可能性が高いと思います。

黙っているのだって、良くない。でも筋の通らない主張は、私は私の価値観に基づいて「それは違う」と言うまでのことです。

私の発言に対して「あなたの言うことは間違っている」という自由は、誰にだってあると思いますよ。

批判的意見は聞かせては頂きますので、コメントでもツイートでも、どうぞ。

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