欧米は医療崩壊していないわけではない

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雪乃
雪乃

いつもありがとうございます。コロナ対応では欧州などの国の感染者数が増えているのに、医療崩壊はしていないという意見があります。そんな中で日本が医療崩壊しかかっているというのは、日本の医療が非効率なやり方をしているからだという声もありますが、果たしてそれは妥当なのか?と今回は考えてみたいと思います。

欧米の医療は崩壊していないのか?

まずそもそもの疑問として欧米の医療は崩壊していないのでしょうか?

前回記事では、英国の医療が極めて疲弊しているという点を報道を引用しつつ指摘しました。https://yashirok.xsrv.jp/archives/820

予定した手術を取りやめ、コロナ以外の患者に退院してもらい、手術室をICUに転用しなんとか医療現場を回している現状です。それでもこれ以上患者が増加すれば対応しきれないという現場の苦悩の声もあります。

ICUが埋まってしまえばコロナ以外で救急救命治療を必要としている患者を受け入れることができない。これはれっきとした医療崩壊ではないか?と思ってしまいます。

では英国以外の医療現場はどうでしょうか?FBでフランスの医療について考察する投稿がありましたので、紹介させて頂きます。https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=3721556577890186&id=100001076413673

投稿では、おそらくと断りを入れつつも、フランスが医療崩壊を免れているのは、高齢者に医療を提供することを断念するトリアージを行っているからではないかとしています。そもそもフランスの医療はコロナ発生以前から、高齢者などを全て救命搬送すると医療システムが持たないからという理由で搬送見送りを行っているとのことです。

このような医療の見送りに対して、フランス国民はそれを受け入れてきました。そもそもの死生観に違いもあるでしょうし、長年のあいだ医療がそのように提供されていれば「医療とはそういうもの」という認識が浸透するでしょう。フランス国内でも、それについて賛否はあるのかもしれません。しかしそもそもの医療体制について日本とフランスで根本的な違いがあると言えそうです。

そしてそんなフランスでも、しばらくのあいだロックダウンが行われ、夜間外出禁止令は現在も継続中とのことです。そして介護施設の利用者に関しては、救急搬送を要請しても病院が受け入れてくれないともあります。さて、日本でも同様に介護施設からの救急搬送はお断りですとされたら、国民はそれを受け入れることができるでしょうか?

ここで個人的な疑問を挟みましょう。どうやら「海外で医療崩壊していないのに日本で医療崩壊しそうなのはおかしい」と言っている人は、欧米での医療の実態を果たして本当にわかっているのでしょうか?他、ドイツでも重度な病態で初めて1型糖尿病と診断される患者が増えたり、イタリアでもアメリカでも医療体制に支障が生じているようです。参考https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20201121-00208818/

おそらくそうした事態を、「海外では医療崩壊していない」論者は正しく認識していないのではないかと邪推します。

また「日本は患者が少ないのに医療崩壊しかかっているのは、非効率なことをやっているからだ」という意見についても思うところがあります。効率とはなんでしょうか?効率が言いとはたとえばコロナを5類感染症に位置づけて、多くの病院で受け入れてしまえばいいというものでしょうか?それとも重症化するのは高齢者くらいだから、高齢者の対応は諦めてしまえばいいというものでしょうか?

5類感染症として一般の医療機関で受け入れるようにすればよいという意見については、コロナの脅威度が実際に高いので5類感染症としても解決にはなりません。5類感染症にしたので普通に受け入れてくださいとお願いしたところで現実的には難しいでしょう。さらに次の項で述べることとさせてください。

高齢者の対応を諦めるなど、何らかのトリアージを行えばよいという意見については、現実的に難しいのではないかと思います。コロナ以前から高齢者への医療を見送ったりするフランスは、先に述べたように死生観や医療への認識の違いがあるのではないでしょうか。

制度設計を行うのは政府でも、その制度は国民の認識やその国の文化的素地にあったものとしなければ機能しません。また、一度制度を設計しその運用を続けていくと、国民の認識もそれに沿ったものとなることでしょう。国民の認識が制度に影響を与え、制度が国民の認識に影響を与える、相互作用があります。

やれ頭で考えて「こっちの方が効率が良さそうだ、だから制度はこう変えましょう」と一部の人が主張したとして、それが現状の制度や国民の認識と乖離したものであっては、うまく機能するかどうか疑わしい。中には北欧の一部の国で胃瘻を造設して延命することがほとんどないのに、日本で胃瘻が多いのは虐待だとまで主張する自称国士のK氏のような人物がいます。そもそもの医療や死生観に対する認識が違うのに、他国のやり方に日本が無理に合わせるべきなのでしょうか。たとえ様々な事情を考慮して北欧のやり方の方が良さそうだとなったとしても、それは時間をかけて議論すべきことです。日本のやり方に疑問を呈するのは自由ですが、虐待であるとまで論ずるのは乱暴です。参考https://youtu.be/r9U_NIs-IQE

そもそも嚥下障害を生ずる疾病に対して胃瘻を造設してQOLが向上する場合もあるので、胃瘻造設を悪とする言い方も慎重に行って欲しいものですが。

5類感染症にすれば解決か

現在、コロナは指定感染症に分類されています。これは期間限定の措置であり、向こう1年間はこの分類が継続される予定となっています。

中にはこれを解除して5類感染症にすれば「一部の病院でしか対応していないものが、他の病院でも対応できるようになり一部の病院に負担が集中する現状が解決する」という意見がありますが、それも極めて疑わしい。

確かに5類感染症とすれば、警戒のレベルは下がるかもしれません。しかし現状でコロナの受け入れを行っていない病院はそれなりの理由があって受け入れていません。また5類感染症にしなければ受け入れ可能な病院を増やせないわけではありません。

勘違い意見として多く見られるのは「コロナ感染症は指定感染症として2類感染症と同等に扱われているので、指定された医療機関でしか受け入れられないし、必ず入院になる」というものです。これは私のFBFのコメント欄で見られました。

①まず「指定された医療機関」とはなんでしょうか?現状が指定感染症として2類感染症に近い扱いを受けているので第二種感染症指定医療機関(あるいは第一種、第二種)でしか受け入れられないかのような意見が他にも見られました。しかし大阪府下での対応の状況を見ているとどうやらこれは事実と異なります。第一種、第二種の感染症指定医療機関でなくとも、ICUがあったり呼吸器の専門医がいる病院では、新型コロナウイルス重点医療機関として患者を受け入れていたりします(例:市立東大阪医療センターなど)。

また他にもコロナ協力病院として軽症や重症から回復してきた患者を受け入れる病院もあります。また指定感染症のままの現状の枠組みの中で受け入れ可能機関を増やそうとすることもしています。コロナの受け入れ可能な医療機関を増やすために、指定感染症を解除し5類感染症とする必要性は必ずしもないということです。

参考【大阪コロナ病床 確保難航 民間は「ノウハウ不足」と難色】https://www.sankei.com/west/news/201224/wst2012240039-n1.html

また沖縄県の話ですが、コロナ患者が増え医療が逼迫した場合、地域の医療機関で受け入れを拡大する話し合いがなされているとのFB投稿もあります。参考https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=3524778847575597&id=100001305489071

②指定感染症だから入院しなければならない、という点ですが、現状でさえホテル療養や自宅待機も行われています。

このように、1つの意見からもこれだけツッコミどころがありますね。

また、「5類感染症にすれば病院が対応するハードルが下がり、病院の受け入れが楽になる」という意見があります。ですがコロナに対応するハードルが高いのは、その感染力の強さや病態からであって、5類であるから対応のハードルが上がるとは言えないでしょう。またこれについては「そもそもコロナは軽い病気でそれほど厳重な対策を必要としないのに、指定感染症であるから過度に厳重な対策が行われている」という認識が背景にあるのでしょう。しかしこれは前回記事で反論済みです。

再掲 【医療の専門性を否定する人 】https://yashirok.xsrv.jp/archives/820

もっとも、5類に指定することで医療機関の認識が変わり、受け入れに名乗りを挙げやすくなるということも、あり得ないとまでは言えないのかもしれません。しかし、医療機関や国民の感染症対策がおろそかになれば、患者が増え重症者が医療資源をより圧迫するかもしれませんので、安易な判断は難しいでしょう。

また先に紹介した自称国士のK氏は、某動画で医師専門のサイトが行ったアンケートで7割の医師が5類感染症への指定に賛成しているという意見を述べていましたが、出典を見つけられませんでした。Twitterでの医師意見では↓を見つけたのですが。

以上から、日本の医療崩壊を免れるために容易な解決策はないのではないかと考えます。他国でも厳しい医療提供体制に陥っていることを鑑み、引き続き対策を考えていくべきではないでしょうか。


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