医療の専門性を否定する人

医療
雪乃
雪乃

いつもありがとうございます。先日書いた記事に対し、長文で異を唱えている方がいるようです。せっかくのご意見なので、その意見に対して考えてみることで、よりこの問題について深く掘り下げていく機会としたいと思います。

感染症防護服は必要ないというご意見について

緊急事態宣言が発令され、感染症対策の拡充の必要性に迫られています。

先日、コロナの院内感染対策を行おうとも、防護服の扱いや感染予防策を実施するにあたり、現場の人間には一定のスキルを備えている必要があるという趣旨の記事を投稿させて頂きました。対応能力を確保する必要があるのは至極尤もですが、それに伴う人材確保は容易ではないというのが私の見解です。

さて、それについての異論を唱えている人が一部にいるようです。もっとも「コロナなんて対したことがない」という意見はネット上では多数見られますからね。

反論の趣旨としては

・医療従事者はプロなのだから、スキルやノウハウがないといった理由でコロナ対応ができないなどと述べるのはある種の怠慢である。私は現在の仕事に就いたばかりのころ未熟さ故にミスをすることや周囲にフォローしてもらうことがあった。元来仕事とはそのような過程を経て覚えていくものであって、感染防護服の扱いや感染予防策を手ほどきできる人間がいるのであれば、その指導によって感染症対策を反復練習して克服していけばいいだけだろう。

・そもそもコロナ対策に防護服なんて要らないのだ。コロナはインフルエンザより若干死亡率が高いだけであるからそこまで怖れる必要はない。それに基本的な対策をしっかりすれば良いだけだ。マスクをしたりウイルスが付着した趣旨で目や鼻を触らなければ感染しないのだ。

という趣旨の反論です。特に前半部分の指摘については、私も理解しないではない。確かに仕事というものがそこにある以上、努力を尽くさなければならないものであるのですから、一部は正しさを含んでいるものであると認識しましょう。

しかし、感染症対策がそこまで容易なものであるとまで言えるのかどうか。また防護服なんて要らないとまで言ってしまう強気さには危うさを感じます。

ではここで、具体的な事例をもとに再反論を試みてみることにしましょう。

その事例とは、北海道のY病院で発生した院内感染の報道です。

Y病院は昨年11月、6階病棟でクラスターの発生が確認されました。そこから感染は10日も経たないうちに同病院の5階と7階に拡大。その後、院内での患者数は200を超える事態となりました。

もちろんここで従事者は防護服を着用しています。しかし感染の拡大によって看護師の負荷が大きくなり、濃厚接触した看護師が現場に入れなくなったり、家族への感染を怖れて退職したりといった事情が重なり、現場は人手不足でかなり困窮しました。

またこの事例に関して感染管理学の専門家が見解を述べています。それは現場の人間に疲労が蓄積し、感染症予防策を行っていながらもウイルスを拡げてしまったのではないかというものです。

同病院の診療科目を見ると緩和ケアセンターがあったり一通りの診療科目があったりと、決して小さな医療機関とは言えません。スタッフの熟練度まで詳細はわかりませんが、少なくともそこで大規模なクラスターが発生してしまったという事実。

もちろん1事例だけで全てを論ずることはできません。しかし、基本をしっかりしていれば感染しないのだという主張の根拠は、この事例について考えるだけで相当怪しいと言わざるを得ないのではないでしょうか?

また、感染症予防策について反復で身につければ良いだけではないかという意見についてですが、疲労が蓄積したりマンパワーが不足していれば、普段はできていることでもできなくなってしまうということもあります。これはコロナに限らず普段から院内感染の事例などに目を通していれば感覚的にわかることです。

ここまで述べてもなおも反論の声が聞こえてきそうです。「だいたいコロナを指定感染症にして限られた医療機関だけで対応しているからこんなことになるのだ。5類感染症にして他の医療機関でも対応できるようにしていれば、1つの医療機関に負担が集中して院内感染が発生することなんてなかったんじゃないのか」と言われそうです。ですが指定感染症であっても地域の医療機関の実情に応じて指定医療機関以外でも受け入れることが可能なので、この反論は妥当ではありません。詳しくは別の機会に述べることができればと思いますが、そもそもコロナはたいしたことがない疾患なのかどうかを先に考えることにしましょう。

死亡率が低いからコロナはたいしたことがない?

コロナはたいしたことがないという主張は実際にSNS、動画サイトなどでよく見られる意見であります。主張の根拠はコロナの死亡率が季節性インフルエンザや他の感染症と比較してもさほど高くないからということであるようです。

しかし私はコロナの死亡率を見てたいしたことがないという意見には賛同しかねます。確かに私個人がコロナに感染したとしても、死亡率は低いので私の命の心配はあまりしなくても良さそうです。生きていれば何らかのリスクは付きものです感染した場合1%の確率で死ぬとして、確かに無視はできませんが死亡率が高いと言えば他の感染症だって死亡率が高いものがあります。運動不足や野菜不足だってよっぽど健康に悪いでしょう。

しかしコロナは重症化して人工呼吸器の使用などを必要とする率がとても高く、それ故に医療崩壊の引き金となりかねないという問題があります。

人工呼吸器の使用が必要となる割合が明らかにコロナの方が高い。また重症化する場合、短期間で病状が悪化してしまうので、設備の乏しい病院では受け入れが難しい。

コロナで重症化したとしても、人口呼吸器があれば十分に回復が見込めるといったケースは多いです。しかし人口呼吸器の数には限りがありますし、人口呼吸器の扱いにはとても専門的スキルを要します。誰でも扱えるわけではない。ここでもまた、医療の専門性とマンパワーが必要になるわけです。

日本と他国の看護師の数を比較して、日本の看護師は多いからちょっとやそっとで医療崩壊するわけがないと述べている人がいましたが、看護師の数で言えば多いのかもしれません。しかし、ICUなどの設備については、人口あたりの数は決して多くはありません。

そして、他国でも日本でも医療崩壊というものが現実となっています。

BBCの報道では現場の医師がコロナの対応にICUを使用しているために、脳梗塞や心筋梗塞などで救急搬送されてくる患者の対応に支障をきたしていると述べており、また患者が増えれば問題がよりいっそう深刻になるとも主張しています。【参考 https://www.bbc.com/japanese/video-55585037 】

本来であれば救急医療を投入して救えるはずの命が救えなくなることも十分にあり得ます。またICUに滞在する平均の日数は季節性インフルエンザのおおよそ2倍。このようなコロナの特性も医療資源を逼迫する要因となっています。

だいたい英国はコロナ対応のために予定されていた手術を取りやめたり、コロナ以外の入院患者を退院させて病床を確保したり、これらは見方によってはとっくに医療崩壊が起こっている。

…という事情を考慮した上で、コロナについては一定程度、感染者を抑制する対策を行わなければいけないと考えます。無論、医療機関の対応力強化と、経済崩壊しないような財政措置も平行して必要とする思います。

また、コロナについて医療機関の従事者が防護服の着用を必要としないなどという意見は、明らかに無理があると改めて述べておきます。

死亡率を考えて、個人としてコロナの対策なんて別にしないという態度は、別に責めようなどとは思いませんが、感染症の標準予防策を確実に実施していく難しさまでご理解いただけない人がいるというのは、残念な話ですね。


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コメント

  1. […] 雪乃 いつもありがとうございます。このブログを開設して半年くらいになりますが、他の方のブログを読んでみていろいろ思ったことなど書いてみたいと思います。 ブログを書いてみての個人的な振り返り このブログを開設するにあたり、ブロ… 医療の専門性を否定する人 […]

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