MMTは介護折り鶴助っ人を救うのか?

介護
雪乃
雪乃

いつもありがとうございます。本日はMMT(現代貨幣理論)によって医療・介護・福祉の待遇が上がるのか?また介護施設に折り鶴を届けてくれる助っ人も必要とされるようになるのか?を考察してみたいと思います。少し難しい話になります。

MMT(現代貨幣理論)とは何か?

YouTubeである介護関係者が

「10万円の定額給付金によって大きな変革が起きた。政府が国債を発行して日銀が購入し、お金を刷る。MMTという画期的な政策だ。

これによって介護で働いている人に1人30万円でも50万円でもお金を渡せるし、政府はいくらでもお金を生み出せるのだから国が福祉にどんどんお金を使えるようになるのだ。

これによって福祉に(素人)人材を派遣するサービスに国がどんどんお金を使い救われる人がたくさん生まれるのだ!」

と述べていました。

この発言にはいくつもの間違いがあります。1つ1つを否定していくと長くなりますが、あとでしっかりと否定します。

しかし唐突に登場したMMTという言葉の意味がわかりにくいのではないでしょうか?

なのでまずはMMTの解説から始めていきたいと思います。

MMTとはmodern・monetarily・theoryの略です。日本語に訳すと「現代貨幣理論」と呼ばれます。

現代の貨幣の理論と言えば電子マネーとかビットコインとかそういったものを解説しているのかと思うかもしれませんが、そうではありません。

そもそも私たちが使っている一万円札とか銀行預金とかがどのような性質のものかを解説するものであり、古来から貨幣がどのように使われてきたか、そもそも貨幣とはどのようなものであるのかについて説明するものです。

貨幣とはなぜ価値を持つのでしょうか?金と交換してもらえるから買い物に使えるのでしょうか?そうではありません。

貨幣は金との交換を約束されていた時代もありましたが、現代ではそうではありません。日本でもかつては金本位制と言う金との交換を基本とした制度を採用していた時期がありますし、そうでない時期もあります。

貨幣とは、信用です。普段買い物に使っている一万円札は、日本政府の信用を紙幣化したものです。

銀行が借り手にお金を貸すときに、借り手に返済能力があると判断したらキーボードを叩くだけでその人の口座に銀行預金を振り込むことができます(銀行預金も貨幣の一種。なぜならクレジットカードで決済したら、銀行預金で支払いをすることができます。銀行預金の振り込みでモノを購入することもできます)。これを信用創造と言います。

あらゆる負債が貨幣です。たとえば折り鶴を折るのが得意なAさんがおやつのナッツを買う時に「Aさんから折り鶴をもらえる券」を使ってナッツ売りから物を買ったとしましょう。この時「折り鶴券」は発行元のAさんの負債(信用)であり貨幣とみなすことができます。

ナッツの対価としてAさんが折り鶴を折り、ナッツ売りが折り鶴券をAさんの折り鶴と交換したらその時Aさんから負債が消滅することになります。

でもこの世に存在する全ての人間が信用できるわけではありませんし、折り鶴しかもらえない折り鶴券は不便です。

なので普段の生活で私たちは「円」という単位で統一化された紙幣なり銀行預金を使って買い物を決済しています。貨幣を想像する信用できる主体として政府日銀・銀行が働いています。

雑駁な貨幣の理解とはこのようなものです。

そして現代貨幣理論をもう少し詳しく理解すると、経済政策についていろいろと考察することができます。

国債の発行で財政支出を増やしてもよいのだろうか?

日本政府は国の中で特別な経済主体です。

政府は永遠に存在するものであり、無くなることはないという前提があります。

日本政府の発行した国債の額が多額であると問題視する意見があります。

このままでは借金が返せなくなるのではないか?と言われたりします。

しかし、日本政府が発行している国債はほとんど円建てです。自国通貨でお金を借りている国は、自分の意志で借金を返さないと宣言するとかしない限り、破綻することはありません。日本政府は日本円を発行できるからです。

ほとんどの国で、政府の債務を減らすようなことはしていません。政府は無くならないのだから、せいぜい利払いだけしておいて、借金の満期が来たらまたお金をかりて返済を延々と先延ばしにすればよいだけです。

無理にお金を返そうとしたら、増税するとか支出をカットすることになりますが、それで国の経済が傾いてしまったら意味がありません。日本政府は自らの借金を減らすために存在するのではなく、日本国民の生活のために存在しているのですから。

政府が発行する国債は、ほとんど国内の銀行が日銀当座預金を使って購入しています。

銀行は自己資本を確保するために、日本銀行という政府の子会社の銀行に口座を作り、そこに預金をしています。このお金は銀行同士がお金を貸し借りする時に使われてもいます。

しかし日銀当座預金という形でお金を持っているだけでは仕方がないので、政府が国債を発行する時、銀行は日銀当座預金を、日銀に依頼して政府の日銀口座に振り込んでその対価として国債を入手します。

この時、国債の購入によって銀行の日銀当座預金が減り過ぎてしまうと、銀行間で貸し借りする時の金利が上がり過ぎてしまうので、日銀は事前に銀行から国債を購入しておくというオペレーションを平時から行っています。

日銀は銀行から国債を買い取り、銀行の日銀当座預金にお金を振り込みます。

政府は自分の子会社に作らせたお金を借りているようなものです。

そして政府は調達したお金で、発注した公共事業の支払いを行ったりします。

この時、工事を請け負った会社は政府から政府小切手でお金を受け取り、銀行に頼んで自分の口座にお金を振り込んでもらいます。

お金を振り込んだ銀行は日銀に頼んで、政府の日銀口座から銀行の日銀口座へと振り替えをしてもらいます。

日本政府は国債を発行して資金を調達すればいいし、破綻の心配はないのだから、必要であれば国債に頼って支出を行えばいい。

政府は黒字を出すために存在している経済主体ではありません。国民が生活に困っていれば、赤字を出して事業を行えばいいのです。誰かが出した赤字は、別の誰かの黒字になります。日本政府の赤字は、外国を敢えて無視すれば日本の企業や日本の家計の黒字になります。

失業者がいれば公共事業で仕事を作ったり、公務員を雇ったり、最低賃金で何らかの仕事を与え人を雇う雇用保障プログラムを組んだりすればいい。

政府が支出をすることで公共事業を行い、インフラを強化することだってできます。研究開発に資金を投じて大学や企業の技術開発を促進することができます。医療従事者や介護従事者に補助金を渡すことによって人材の定着や育成を促すこともできます。

国債を発行すればいいだけ。ただ、それだけのことなのです。

国はいくらでもお金を発行して福祉にお金を渡せばいいか?

ここからが冒頭の動画に対する具体的な指摘になります。

確かに国債を発行すれば、必要な費用を賄うことができるでしょう。

そういう意味では「いくらでも国債を発行して福祉にお金を渡す」というのも間違いではないような気がします。

しかし、さすがにいくらでも国債を発行することはできません。

というより財政赤字を多額に計上することが問題です。

今のように社会にお金が回らず、モノがあまり売れていない時には政府がお金をどんどん使っていけばいいでしょう。

ですが、皆がお金を受け取り積極的に使っていくと、今度はモノが足りなくなってきます。それでも政府が赤字を出し続けるとモノ不足がますます拍車がかかりインフレがどんどん進行してしまいます。

だから、いくらでも国債を発行しいくらでもお金を使えとはMMT論者は言っていません。

あくまでもインフレが過剰にならない範囲でお金を使えと言っているに過ぎません。

冒頭の動画配信者はよく理解せず、都合よく解釈して物事を論じています。不誠実極まりない。

もっとも、インフレが生じたとしてもなんの手立てもないわけでがありません。

政府が赤字を出してインフレが進行するのであれば、防ぐ手立ても抑制する手立てもあるからです。

まず、いきなり政府が大きな赤字を出さずとも、ある程度の額に抑えて長期間にわたって支出するようにすればよいのです。

また皆がお金を使い過ぎてインフレになっているというのなら、税金で購買能力を抑えていけばいいのです。ここで「そんなに簡単に増税はできない!」という意見があります。確かにそうですが、所得税などは累進課税の設計になっています。

経済が過熱し、皆の所得が増えた時には自動的に税率が上がり、より多くのお金を回収することになります。

それでなくても、税金は経済の活動に対してかかってくるものです。人がモノを買い、労働者が収入を得たら税金が発生します。

インフレになるまでにモノが売れているのであれば、それは経済活動が活発に行われているということです。それだけで税率が一定の消費税のような税金でさえ、税収がおのずと増えることになります。

また失業していた人も仕事を見つけやすくなります。失業者には失業保険や、大きく収入が落ち込んだ人には社会保険料の減免を行ったりして政府がお金を使っていますが、失業する人が減れば自動的に支出が抑制されます。

税収が増えてくれば国債の発行額を減らし、得た税金で支出をすればいいので政府赤字を縮小することだってできるはずです。

またインフレが発生しているのに供給能力が一定でしかないという前提の意見もありますが、いささか不可解です。

まず皆がモノを買い、、自社の商品がよく売れているのであれば企業は設備投資をして供給力を増やそうとするはずです。

設備投資というのも、企業が銀行からお金を借りて使うので需要増加要因になるのですが、供給力を増やすことにもあります。

また不況対策として政府がインフラ整備にお金を使っていれば、道路輸送などの能力も強化されて効率よくモノを生産することができるようになります。最初は需要を生むために使っていたお金が、あとあと供給力を生むことができるのです。設備投資や公共投資は、需要と供給能力を両方生みます。

これを投資の二面性と呼びます。

それでもまだ不安なのであれば雇用保障プログラムを用意しておけばいいでしょう。

雇用保障プログラムは米国などの本家MMT論者が重要視している政策で、失業した人を政府が最低賃金で雇用するシステムです。不況の時は雇用保障プログラムの利用者が増え、政府の支出で人々が救済されます。好況の時は逆で最低賃金でしか働けない雇用保障プログラムの利用者が減り、政府支出が自動的に減少します。

これで問題が全て解決するとは思いませんが、インフレの抑止についての議論はMMT論者の間でも積極的に行われているのです。

本来であればこれだけ緻密な議論の元、経済政策の是非が検討されているのですが、安易に「いくらでも国債を発行できるのだから福祉業界にどんどんお金を渡せばいい」と言い切ってしまう動画配信者は軽率が過ぎると言わざるをえないでしょう。

都合よくMMT(現代貨幣理論)を使うなということです

MMTは折り鶴助っ人を助けるか?

問題の動画配信者は、介護施設に素人だけど介護に関わってみたいという人を施設に派遣する人材派遣サービスの組織に関わっているようです。さすがに今は感染症が心配なので施設に受け入れてもらえず、折り鶴を折って介護施設に届けるみたいな半分嫌がらせのような活動をしているようですが。

しかし、もしMMTの理論を政府支出増加を正当化するものとして扱ったとしても、

人材マッチングサービスを助けるような政策を正当化する必要性は微塵もない

と断言します。

政府支出を増やすなら、介護報酬に上乗せをしたり施設に補助金を出したりして、介護事業所の経営が助かるようにお金を使うべきです。

そうすることで、介護事業所の収入が増え、事業者が求職者に提示する報酬の額を増やせるようにすればよいのです。

配信者は「福祉はインフラ」と述べていました。インフラというなら介護保険という確かな基盤に基づいた部分を補強するため、介護報酬などにお金を使うべきです。

まず介護事業を行う事業所の収益をしっかり確保して、事業所が直接雇った人にお金を出せるように持っていくのが福祉政策のあるべき姿だと思います。

素人人材を施設にあてがう人材マッチングサービスなんて、優先順位は2の次3の次ですよ。

国民の生活を豊かにする基盤を確保するためにMMTのような理論を理解する必要はあると思います。しかし、だからと言って平時から必要性に乏しい人材マッチングサービスまで、MMTの恩恵を受けれるなんてゆめゆめ思わないことです。

余計な口を出さす、黙って折り鶴でも折っていてください。MMTを理解していないのにMMTなんて語られると、MMTの理解を妨げるだけにしかなりません。MMTにも介護事業にも、そんな助っ人は不要です。

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