いつもありがとうございます。介護での食事の提供は誤嚥・窒息に注意しなければなりません。嚥下機能が低下しているけど、普通のご飯が食べたいと希望される方もいらっしゃいます。そうしたニーズにどのように応えていくべきなのか、考えてみました。
嚥下機能の低下と対応
介護の現場では、食べる機能(嚥下機能)が低下している人の対応を行うことが多々あります。
脳血管疾患のある方や、パーキンソン病、ALSといった神経難病でも嚥下機能の低下は起こってきます。
認知症で食べ物に対する反応が乏しくなって、窒息事故が起こりやすくなるという場合もあります。食事の時間なのに半分寝そうになっているような、覚醒度の低い方もいらっしゃいます。高齢になると食べるのも一苦労というわけです。
意外なところで、サルコペニア(筋肉減少症)が嚥下機能低下の原因になっている場合もあります。物を飲み込むのにも、筋肉が必要だからです。
嚥下機能が低下している方は、下手をすると誤嚥性肺炎という疾患になってしまう場合があります。口で食べたものは咀嚼して食道に送り込まなければならないのですが、うまくできない人は気管に食物が入ってしまい、肺炎の原因となります。
この誤嚥性肺炎というものを発症してしまうと、入院して絶食対応しなければならなくなってきます。また回復するまでの期間はベッドに寝て安静にしてもらわないといけないので、呼吸機能や嚥下機能のさらなる低下の要因ともなりかねません。この時期に栄養管理ができていないと、嚥下に関わる筋肉も衰えてしまいます。
なので誤嚥や窒息の事故を減らすために、嚥下機能の低下している方には食事の内容を考えて提供していかなければなりません。
一口大に食材を切ったり、さらに細かく刻んだり、とろみをつけたり、柔らかく煮たり、あんかけにしたり、ミキサーですりつぶしたり、ムース食にしたりと様々です。
以前デイで勤めていた時は、もっとも嚥下機能の低下した方にはミキサーですりつぶした食事を提供していました。ミキサーにかけたあと、食材を固めて元の形状に近付けたものを提供する場合もあります。
食事の提供には見極めが大事
食事の形態を落とし過ぎて、刻み食にしてしまうと、食べても食べ応えがなくて食事に満足できないという場合もあります。しかし、利用者さん本人の嚥下機能の見極めは難しいところがあります。
その評価のためにST(言語聴覚士)という専門職の方もいらっしゃいます。STは食事に関するリハビリを行うことができます。病院や介護施設、訪問看護ステーションなどで活躍されています。
仮になんらかの原因で食事の形態を落としたとしても、栄養摂取の重要な手段である食事をより楽しめるよう、安全に食事ができるよう、機能訓練や食事形態のアップの方法を模索できる方が望ましい。看護師や管理栄養士、STなどとの専門職の連携で、食事の質を安全にあげていきたいものです。
利用者からの「食べたい」の要望にどう応えるか
ある介護施設で、10日前まで入院先でペースト食を食べていたという入居者さんが、深夜に「カツ丼を食べたい」と希望されたので、作って食べたら大変喜ばれたという話がありました。
なるほど、好きなものを食べられないより、食べられたら満足感を感じるのは当然のことでしょう。その方はカツ丼を食べた後、「今度は天丼を食べたい」と希望されたそうですが、天丼はなかったのでラーメンを召し上がったそうです。食欲旺盛ですね。
しかし、食事で満足感を得るのはもちろん重要なのですが、リスク管理も重要です。
この話を聞くと、いろいろ疑問点を感じます。果たして適切な対応なのかどうか、少し考えてみましょう。
まず、病院でペースト食で対応していたのであれば、何らかの嚥下機能低下があったと思われます。
その方に、退院10日という短期間でカツ丼やラーメンを提供したのは、果たしてその人にあった食事形態だったのか?
ということです。とりあえずその食事で窒息するようなことはなかったようですが、誤嚥は簡単に起こりえます。本人の嚥下機能を綿密に評価した上でカツ丼やラーメンを提供しているのであれば問題ないかもしれませんが、逆に出来ていないようであれば誤嚥性肺炎がいつ起きてもおかしくないとは思います。
この後、施設の方からは「評価はちゃんと行っている」という旨のコメントがありましたので、まあそこはされているのでしょう。
しかし、高齢の方で半年間ペースト食だった方が、そこまでの短期間で普通食が食べれるようになるのはかなり稀なケースであると思います。
いろいろ大丈夫かと思ってしまうので、そういう話をTwitterで公開するのであれば事前にきちんとした評価をしているという過程を最初から発信しておいた方が無難でしょうね。
下手すると「無謀なことをする施設だ」と思われかねないですから、そういう説明をちゃんとするのもリスク管理ですよね。
次に、万が一事故が起きた時の取り決めは、本人、ご家族としっかり話し合い、合意が得られているのか?
ということです。仮に食事の形態がご本人の嚥下機能に合わないものだったとして、その食事を提供して事故が起きた場合、施設や食事を提供した職員個人に対して、法的な責任を追及されるリスクがあります。
これに関しても、そのような合意はちゃんと得ているとのことでした。施設の方がそうだと言っているのだからきっとそうなのでしょう。
もっとも「家族の希望で本人が食べたいと言ったものを食べさせたら、塩分過多で体調を崩し、家族からクレームがきた」という話を聞いたこともあるので、合意を得るってなかなか難しいですよね。
介護職が考えているリスクについて、きちんとご本人やご家族に理解してもらうのはなかなか難しいことです。
もし家族へのリスクの説明に抜けがあったら、訴訟沙汰になり最悪事業が立ち行かなくなる可能性だってありますよね。そうなったらその施設を利用している方はどうなるか・・ということもまた考えておかなければなりませんよね。
まあ繰り返しになりますが、施設側の言い分としてはしっかり話し合いをされているとのことなので、ちゃんとされているのでしょう。
しかし、言葉が足りないと、安易に真似する事業所や介護職がいそうですね。誤解のないようしっかり最初にツイートしておいた方が無難だなとつくづく思います。
そして最後に
なぜ夜間に提供したのか?
という点が非常に気がかりです。夜間はどこの施設でも人員を手厚くするのは難しいです。もしその時間帯に事故が起きたら、救急搬送の手配などで、少ない人員を割かないといけません。
これについては「お昼に提供した方が良かったのではないか?」という疑問がどうしてもあります。
この点については明確な説明がないように思いますが、実際どうなのでしょうね。
なんにせよ、施設の理念として利用者からの要望にできる限り応えるというのは、大事なことだとは思います。しかし、そこで利用者の言い分をそのまま受け取って実行するだけが、専門職のあるべき姿ではないと思います。
その方が無理なく食べられる内容で、できる限り満足感の得られる形態、食材を工夫するであったり、代替食を提案するであったり、できることはいろいろあるのではないでしょうか?
個人的には「利用者の要望を叶えた、素晴らしい!」という点に施設、賛同者の意見が集約されがちだったので、違和感を覚えてしまいました。
食事形態のアップは、段階を踏んで慎重に
一般的な話として、嚥下機能の低下した方の食事形態の検討は、本人の状態を評価して最も難易度の低いものから始めることが基本です。
そして食事形態のアップは、その時点で摂食している段階の食事を30分以上で7割以上摂取できる、それを3食以上摂取できたときに行うことが推奨されています。
また摂食状態はもちろんのこと、発熱の有無、呼吸状態の変化、ムセの有無などを慎重に観察します。異変があった時はその原因は何であるのかを慎重に検討します。
そして食事のメニューの1品のみを難易度を1つ高いランクに設定してクリアできたら徐々に切り替えていくなど、慎重な対応を必要とします。もちろん段階をスキップして食事形態をアップするなど、望ましいことではありません。
このような訓練方法、食事形態アップについては、参考書籍として「摂食・嚥下障害ケア」に詳しく記載されていますので、興味のある方は読んでみてください。
専門職なら根拠について真剣に考えるべきだと思う
最後になりますが、利用者にカツ丼やラーメンを提供した施設の対応について、そのような対応がふさわしいのかどうか、エビデンス(根拠)を求める声がありました。
その意見について「根拠なんてどうでもいい」とコメントしていた法人運営者がいたのですが、個人的には感心しません。
何が何でもエビデンスが大事だとは思ってはいません。時にはエビデンスの裏付けがなくとも、実行しなければならないケアだってあるでしょう。
ですがエビデンスはこれまでの様々な検証や実践の蓄積から得られたものです。それを蔑ろにしていい理由はないと思います。
エビデンスが全てではなくても、最低限、今の時点で得られているエビデンスは参考にすること。それが専門職のあるべき姿だとは思います。
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嚥下機能の低下した方の対応として、トロミ剤の利用など、ご家庭でも工夫できることはあります。
介護保険の認定を受けている場合はSTさんの家庭でのリハビリなどを介護保険を使って受けられる場合もありますので、ケアマネなどにご相談いただければいいかと思います。
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