「では、普段食べているものから聞かせてもらっていいでしょうか?」
「魚が好きなので、魚を焼いたりしてもらってます。あんまり手の込んだものを主人に作ってもらうのも悪いし」滝沢さんはマスクをつけたまま言う。
隣で夫が頭をかきながら答えた。「ブリとかサケとか、塩焼きの簡単なものです。朝はバナナを小さく切ったり。夕方は看護師さんに胃ろうの注入を頼んでますから」
「なるほど」是枝さんはメニューを書き留めながら質問を重ねていく。
そうして1週間のメニューを確認したところで、是枝さんはおおよそのカロリーを計算した。
「ここ2ヶ月で1.5キロほど体重が落ちているとのことですから…。減少を少し緩やかにするには、もう少しだけカロリーがあった方がいいと思います。具体的にどうするかなんですが」
メモ用紙を取り出し、是枝さんはアドバイスの内容を書きながらまとめていく。
「まず、ブリの切り身を買ってくる時は、何枚か入っているのを買いますよね。滝沢さんが食べる分は、脂分の多そうな切り身を選んでみてはどうでしょう」
なるほど。同じ魚でも、肉の部分より脂の部分の方がカロリーが高い。これなら同じ量でもカロリーを少しは高めに持っていけるかもしれない。
「サケを焼くときはバターを使ってバター焼きにしてみる。もちろん、ご主人にそれが難しいようでしたら、他の方法を考えます」
「まあ、それくらいならなんとか」
夫は滝沢さんが家事ができなくなってから、試行錯誤して毎日それなりに料理はしている。もともとマメな性格なのか、よく見たら本棚に料理雑誌が増えている。勉強家なんだと思う。
ここで小難しい料理を提案しても、料理をする夫が難しいと感じれば実現できない。たとえ1回か2回できたところで続かなければ意味がない。
介護力を考えたスキのない提案だと思う。これが訪問管理栄養指導か。奥が深い…。
「まだまだできることはあると思うのですけど…。これから滝沢さんの好きな味付けや食材を聞いていって、そしたらもう少し具体的なメニューを提案できると思います」
「今日のアドバイスのこと、次回の往診で遠山先生に私からもお伝えしましょう」そう私は申し出た。チームがバラバラではいいケアはできない。
「私からも主治医の先生に報告書を書きますね」
「皆さんにお世話になりっぱなしですね。すみませんが、よろしくお願いします」滝沢さんと夫は私達に丁寧に頭を下げるが、私達にとっては支援するのは当然のことだ。
訪問による栄養指導は、まだ始まったばかりだ。これが生活の質の向上につながるか、アドバイスして終わりというわけではない。
サービスを利用して、影響を評価する。そして次はどうするか常に考えていかなければ。ニーズがある限り、私達の仕事には終わりというものがない。
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