介護業界に成果主義は必要なのか?

介護

皆さんこんにちは、雪乃です。

本日は成果主義について述べたいと思います。

Twitterで「介護業界が発展するために、成果主義を導入する必要がある」とおっしゃっている方がいました。

その方が言うには、仕事をさぼってばかりいる人が正社員で高い給与を得ていたり、逆に真面目に働き能力も高いのにパートで良い待遇を受けれていない人がいたりするので、成果主義によってそれを改善するべきだとのことなのです。

なるほど、確かにサボっているのに他の従業員より高い給料をもらっている人がいたら不公平です。ここまであからさまな例だと、是正が必要だと誰もが思うでしょう。

ですが、そこで成果主義の導入とまで言うのは、飛躍しすぎです。

そもそも、成果主義そのものが、あまり優れた発想ではありません。

成果主義について、他の介護職の方も問題点を指摘している方がたくさんおられたので、私もその方向から意見を述べてみましょう。

介護と成果主義は相性が悪い

まず、成果主義というからには、仕事の成果を定量的に評価しなければなりません。しかし、介護の仕事はそれをどうやって評価するのかが、まず難しい。

訪問介護で身体介護を行うとか、デイサービスで入浴介助をしたり調理の業務をしたり、特養で様々な業務をしても、そのほとんどが目に見える成果が現れるものではありません。

なら、仕事の能力的な部分で差をつけるしかありませんが、評価制度を作るにしても、小さな法人では大変で割に合わないでしょう。

介護の法人で、単独の事業所であれば、そもそも評価制度を構築できるスキル、人材が乏しいです。

この環境下で無理に成果主義を導入しようとしても、歪な制度設計になる可能性が極めて高い。なら最初からやる意味がありません。

次項ではさらに成果主義そのものの問題点について指摘します。

成果主義は新しいものではない

成果主義は既存の年功序列型に代わる新しい考え方であると勘違いしている人が多いです。

しかし、経営学が専門の高橋伸夫氏が、著作『虚妄の成果主義』で指摘しているのですが、成果主義は120年ほど前のアメリカで提唱されていたものです。

昔のアメリカでは

①仕事の工程を科学的に細かく評価し、非効率な部分を廃止してなるべく効率の良いものに変えること

②効率のいい仕事をした上で達成できる目標を設定し、目標を達成した場合は割増賃金を払うこと

これらが「科学的管理法」として提唱されました。このうち①の部分は生産性の向上に寄与したため、現在でも取り入れられています。

しかし、②の目標を達成した場合の高い報酬という部分に関しては、上手くいかないのでほとんど浸透していません。

目標を設定しても、労働者からすれば目標を達成すれば良いと認識されて、与えられた目標以上に自己の能力を発揮しようという労働者があまりにも少なかったからです。

じゃあ目標設定を工夫すればいいだけじゃないかと思う人もいるでしょうが、それができないから失敗したのです。

日本企業も1990年代頃から成果主義を取り入れるところが増えましたが、これまた上手くいかないので、ほとんどの企業では形骸化したり、見向きもされなくなったと高橋伸夫は指摘しています。

そもそも、仕事の成果に対して賃金で報いると、仕事のモチベーションが低下するのです。

簡単な実験として、人にパズルの課題を与えると、パズルを解くことの楽しさを見い出し、ある程度自発的にパズルに挑戦します。

しかし、パズルを解いた報酬に金銭を支払うようにすると、金銭が貰えない場面では自発的にパズルを解こうとしなくなる人が多いです。これは再現性の高い実験結果です。

パズルを解く楽しさという内発的な動機が、モチベーションを保つカギで、金銭での報酬という外発的な動機を与えると、内発的な動機がしぼんでしまいます。

成果主義に手を出す前の日本企業は、仕事ができる者に大きな仕事を任せたり、人事で責任のあるポストを与えることで、社員のモチベーションを保つことにある程度成功していたのです。

成果主義は人間の心理にそぐわない、問題のある報酬体系なのです。

他にも、人を能力で評価しようと評価制度を導入したが、社内での評判の悪いものが評価制度上高く評価されてしまったり、給料で差をつけるつもりがほとんどの社員が横並びの評価になるだけで意味がなかったりと、問題点がいくつも露呈しました。

だから成果主義が大昔から提唱されているのに根付かないのであって、今さら「これからは成果主義なのだ」と主張する人は、そろそろ考え方を更新するべきでしょう。

もちろん、高橋伸夫も、既存の年功型に何も問題がないとは言っていません。ただ、日本型の年功型は最適解であると述べています。

興味のある方はぜひ読んでみて欲しいです。15年ほど前の本ですが参考になると思います。

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中野剛志の官僚の反逆という本でも、高橋伸夫の書籍が簡潔に紹介されていたので、興味のある方はこちらもどうぞ。以上、雪乃でした。


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