いつもありがとうございます。本日は身近な地方自治体の運営や、財政の仕組みについて解説したいと思います。
国や地方自治体は利益を出すために存在しているのではありません
経済活動の縮小で、収入が激減したりやむなく廃業しなければならない方が、今後増えてくる可能性があります。
感染症の拡大による医療の崩壊危機と、経済的な危機とのダブルパンチになってしまいますが、このような事態になってしまった以上、如何に影響をなるべく小さくするかを考えて国全体で対処していかなければなりません。
収入減に見舞われている方達も本当に大変だと思います。
しかしこういう時こそ冷静に考えなければいけない案件があります。
平時でも散見される意見ですが「国が財政赤字なのに、なぜ議員や役人に報酬がでるのか?赤字なら報酬の大幅削減が当然だろう」というご意見が、より目につくようになってきた印象があります。
公務員のボーナスはいつも叩かれています。ボーナスと言っても、公務員の給与体系を民間のやり方を参考にして、まとまった報酬を民間のボーナスの時期に支給しているだけなのですが。企業収益に左右される民間のボーナスと、公務員が受け取るボーナスはまったく意味合いが違います。
ともあれ「国や地方自治体は営利を目的とする団体ではないのだ」という前提が理解できていない人が一定数いるかと思うので、詳しく解説します。赤字だったら公務員の給与を減らせというご意見は根本的に間違っています。
ある架空の地方自治体があるとしましょう。数十万人規模の大きさで市の財政収支は均衡しているとします。
普段は市の収入と支出がとんとんでやっていましたが、ある年にその地域に集中豪雨が発生し、河川の氾濫や土砂災害が発生しました。
そこで市は災害救助の自衛隊や地域の土木事業者とも連携し、災害の対応にあたりました。要救助者の救助を終え、傷病者の対応を行ったとしても、まだその地域の復興という課題が残っています。
地元の企業も工場や店舗がダメになり、営業できなくなった事業者が多数出ています。その時点で市に入る地方税は減少しました。
住民の家屋の被災も多かったので、市は介護保険料の減免などの措置を行い、被災した方の救済制度も設けました。被災状況の把握や復興の計画を立てるために公務員はフル稼働で残業も厭わずに働きました。
結果的にその自治体では収入減と支出の増加で、大幅な赤字を計上しました。
ですがその時に「なぜ市が赤字を出したのに、議員や公務員は給料をもらっているんだ!赤字を出すなんてけしからん!」言われたら「それはおかしい」となるのではないでしょうか?
まあ、「民間は災害で給料が減ったのに公務員は減らないなんて」という不満はあるかもしれないでしょう。これは別の項で触れます。ですがここでは「地方自治体は営利事業を行っているわけではないのだから、赤字になったからといって仕事をしていないとか運営が稚拙だとかいう意味での批判をするのは筋違いだ」という指摘はさせて頂きたいと思います。
国は自治体は営利を目的としていないので、なんらかの事業を行っても収益が入るわけではありません。赤字になった=間違った仕事をしている、というわけではないのです。
累進課税、生活保護などのスタビライザーについて
あまり理解されていないことかもしれませんが、所得税などの税制には、経済を自動的に安定させるスタビライザー(自動安定化装置)としての役割があります。
例えば、金融危機などで世界的に景気が後退するような事態が発生し、収入の落ち込んだ人が大量に発生したとします。収入が減ったらお金を使わなくなるのが当然の道理なので、連鎖的にたくさんの会社の収益が減り、たくさんの労働者が収入が減っていきます。
所得税などは累進課税制度であり、収入によって税率が変わります。
ある収入までは23%だった税率が、収入が減ると20%、10%と税率が軽くなっていきます。
こうやって多くの人の所得が落ちると自動的に減税されることになり、景気の落ち込みを緩和することができます。
会社がつぶれてしまって、別の仕事を探したが以前の仕事より収入が減ってしまったという場合でも、この累進課税のおかげで少しでも収入減少の効果を期待できるとともに、ある人の収入が減らないということは別の誰かの収入も減らないという効果が期待できます。つまり経済全体の大幅な落ち込みに多少なりともブレーキを効かせる効果があるということです。
もっとも景気の後退はこの程度では食い止められない物なのですが、ないよりはマシ。ちなみに景気が急によくなった時には逆の効果が発生し、経済の活発化がバブル化につながるのを抑止します。
ちなみに生活保護も似たような役割を持っています。
生活保護を受けるのは簡単ではありません。手持ちの金額がかなり少ないと審査に通りませんし、本来は違法なのですが、役所の窓口ではねられるということも実際におきています。
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しかし、不景気での失業、困窮が多数発生した場合、困った人の生活を助けるために生活保護が支給されます。それは収入源を失った人もある程度のお金を使えるようになることで、連鎖的に他の人の収入の減少を防ぐという効果もあるのです。
景気が良くなった時は、理屈上逆の効果が働きます。生活保護の人が仕事を見つけやすくなるために自動的に生活保護が少なくなり、景気のバブル化を抑止します。
国や自治体は、景気後退時には生活保護の給付で赤字を拡大させます。その赤字こそが経済の維持の役割を果たしているという理解も必要です。
企業や家計は、景気が悪くなるとお金を使いたがりません。ですが誰もお金を使わないと経済は崩壊します。そういう時に減税や各種の給付で代わりに赤字を出すのが政府の役割なのです。
政府の財政運営は、企業や家計と同じではありません。むしろ民間の逆張りをしなければならないのです。
今議論されている国民1人に対しての10万円の給付ですが、「お金を使ってもらうためではなく、あくまでも困った人のために給付するのだ」とか「お金を使うと将来世代の負担になる」とか言っている政治家がいるのですが、近視眼的でミクロな視点からでしかものを考えられないのかと心底呆れています。
景気が悪くなりそうな時は政府が赤字を増やすのだという経済の基本を、まるで理解をしていません。具体的な名前を出すと蓮舫氏とかです。
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公務員雇用はカウンターサイクリカルである
ビルトインスタビライザーよりもっと理解されていないのが、カウンターサイクリカルです。
公務員も消費者であり、給料から消費することで別の誰かの収入を生んでいます。
公務員の給料は安定していると言われます。景気がいい時にも上がらない代わりに景気が悪くても下がらない。
今、民間の収入がどんどん減りそうだという時に、公務員の給料が下がらないということに対する批判がありますが、給料が変動しにくい公務員の給与体系は経済において意味を持っています。
もし多くの国民の収入が下がったからと言って、公務員の給与も下げてしまったら、公務員も消費を減らします。そうするとまた別の誰かの収入が減ってしまうということに他なりません。
公務員の給与が、景気が良くても上がりにくく、悪くても下がりにくいということは、これも景気の急激な変動を抑制しているということに他なりません。これがカウンターサイクリカルです。
そしてカウンターサイクリカルの解説から外れてしまいますが、もう一つ。
今「皆が収入が減っているのに公務員の給料が下がらないのはけしからん!下げろ!」という人は景気が良くなった時に「みんな収入が収入が増えているのだから公務員の給料を上げてやれ」と言うのでしょうか?
言いませんよね、絶対。昔の景気が良かったころ公務員の収入は民間と相対して低い水準にありましたが「公務員なんて給料が低いのになる人は物好きだね」なんて言われていました。
不況で民間が下がって公務員の給料は相対的に高くなるようになった今「なんで公務員は待遇が良いのか」などと言われています。
景気がいい時に公務員の低い待遇に何も言わないくせに、悪くなったら高いと文句をつけるのは身勝手すぎます。
誰かの給料に文句をつけても、自分の収入が増えるわけではない。妬み、ルサンチマンはいい結果を何も生まないのです。
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