【介護】事故のリスクから、法的に職員を守れるの?

介護
雪乃
雪乃

いつもありがとうございます。利用者さんに深夜にカツ丼を提供した介護施設の件ですが、まだ尾を引いていて、ネットメディアの記事になるなど影響力が残っているようです。宣伝になりかねないのであまり言及したくはないのが本音なのですが、介護について誤解を広めたくないので当方の見解をもう一度書いておきたいと思います。

「深夜にカツ丼」の概要

Twitterや過去の記事で言及した

「介護施設による深夜にカツ丼の提供

ですが、その後のTwitterの皆さんの反応でもう少し事情を把握できたのでここで改めて整理しておきたいと思います。

・現場は看護小規模多機能型居宅介護の施設です。特別養護老人ホームや有料老人ホームのように、入所、入居の施設ではなく、「通い」「泊り」「訪問介護・看護」を利用者の状態に応じて一つの事業所から一体になって受けることができるサービスです。

・深夜にカツ丼を食べたいとリクエストしたのは、10日前まで入院していた男性。半年間の入院期間中はペースト食で対応。

・利用者のリクエストに応じてカツ丼を提供した動画を、法人の代表者がTwitterに投稿。介護関係者からは賛同、異論の様々な声が出る。

です。ざっくり言うと、こんな感じ。

主な賛同意見は

・利用者のニーズに応じて、一概に「危険だから」と言って提供を断念するのではなく可能な限り要望に応じるのは素晴らしいこと。

・事業所の専門職がしっかりとアセスメントをしているのだろうから、提供しても問題ないのだろうと事業所が判断してのことだろう。

家族の同意があると事業所が言明しているのだから、同委の上で行ったのであれば問題ない。

根拠なんてどうでもいい。

といったところでしょうか。

対する批判意見ですが

・病院で半年間ペースト食で対応していたのは、それなりの根拠があるはずだ。利用者の要望は尊重しつつも代替食を提案するなどするのが専門職。本当に安全に十分な配慮をしていたと言えるのだろうか。

仮にアセスメントをしっかりとしていたとしても、なぜ深夜に提供するのか。救急搬送になれば人手の少ない時間帯に対応することになるので、病院も介護施設も、万が一の場合は相当な負担を強いられるはずだ。食べたいといったからと言って夜間に提供する必要性は乏しいだろう。

・家族の同意があると言っても、事故が起こった後になって態度を変える家族は実際に存在する。本人、家族の同意と言っても、しっかりとリスクを判断した上での同意なのか。

・事故が起こったあと、法人の責任が問われるばかりか、その場にいた介護職が法的責任を追及される可能性が否定できない。現場の職員を法人は守り切れるのか。最悪の場合、業務のリスクに耐えきれない職員の離職の原因になるのではないか。

根拠に基づくケアを提供するのが専門職なので、「根拠なんてどうでもいい」と言ったら専門職として終わり。

というところだと思います。私は批判的立場なので、批判的意見が具体的になっていますが。

この件を取り上げたメディアは、賛同の立場から法人の代表者に直接インタビューをしていたからなのか肯定的意見を具体的に述べていたように感じました。まあ、アクセス数を上げたくないので、引用もURL貼り付けもしませんが。Twitterでも記事を貼ったりRT、いいねは控えさせて頂きたいと思います。

以下はこの件について改めて当方の感想&ツッコミを書きたいと思います。

Twitterでの紹介の仕方がおかしい

まず、事業所の代表が利用者のリクエストに応じて深夜にカツ丼を提供したことを、誇らしい点だけ取り上げて紹介したそのやり方が、見ていて愉快なものではありませんでしたね。

介護の専門職からすれば、退院10日、ペースト食だったものをいきなりカツ丼を提供したかのように紹介されれば、疑問を感じるのはある意味当然だと思います。

記事になって、詳細なアセスメントのもと、徐々に食事形態を上げていってカツ丼を提供するに至ったのだと説明されていましたが、「徐々に食事形態を上げていく」という具体的な過程が省略して述べられていたように感じて、かなりの違和感を感じます。

普通はいきなりカツ丼を提供したりはしないんですよ。当たり前ですけど。

そして本当にアセスメントと食事形態の変更という過程が、綿密に行われていたのかどうか個人的にはまだ疑問なのですけど、介護関係者でない人あのが雑な事例紹介を見たら、介護施設であればすぐにあのような食事内容の変更ができるのだと思ってしまうのではないでしょうか。そうなると、条件の違う他の特別養護老人ホームや有料老人ホームでも、安易に「本人の望む食事をさせてあげて欲しい」という要望にもつながりかねないと思います。

もちろん、家族の確固たる価値観でそう要求するのは、尊重しなければならない。しかし要望を聞く施設の方もまた、リスク判断に悩むのが実情だと思います。

そして、家族の同意という条件も、上の批判的意見で紹介したように簡単に「同意を取っています」と言えるものではありません。

家族の中には実際に何か起こってから態度を変えたり、今まで介護に関わっていなかった家族が登場して違う意見を述べたりする方がいらっしゃいます。これは「家族の意見なんて信用できない」と言っているのではなく、同意を取ることの難しさや現場での経験則を述べているのです。

今まで対応したケースでも、ショートステイの契約に立ち会い「万が一の場合、施設でも窒息事故が起きてしまうことはあります」と説明するのを確認したことはあります。

しかし、本人に合わない食事形態で誤嚥性肺炎が起きてしまうリスク、誤嚥性肺炎が起きたらどういう結果につながるのか、栄養の過剰摂取がどういうリスクを伴うのか、綿密に説明することは時間的に施設にも難しいでしょうし、家族にも専門的なリスク判断を短期間のうちに理解しきることは、困難でしょう。

そのような理由から「同意が取れています」と明言することは、簡単にできないと思っていますし、明言されると逆に「そのような施設は紹介しづらい」と思ってしまうのが、いちケアマネとしての私の見解です。

法令遵守の疑問、記事にされていない言葉の疑問

そして本当に万が一の場合、アセスメントを仮に綿密にしていたとしても、食事形態の変更を綿密にしていたとしても、同意をとったと思っていて施設がこれで万全と思っていたとしても、事故が起きて法的にこじれてしまったとしたケースを考えてみましょう。

事業所が運営責任を問われても、保険で対応できるという代表の投稿がありました。また「関係性がしっかりできていれば個人が責任を問われることは少ない」という投稿もありました。

しかし、関係性が大事なのは当然で理解もできるのですが、介護職個人を守る根拠としては、弱いのではないかと思いました。関係性の構築が容易な人もいれば、難しい人もいます。

そして、一般論としては関係性の構築には時間だってかかります。新規で利用を開始したばかりの人とは、どこまでの関係性が構築できているかもわかりません。

いくら事業所が「私たちは関係性を大事にしています」と述べたとしても、大事にしていると述べただけではどれほどの関係性が構築されているかどうか、判断はできません。そもそも関係性を大事にするのは当然のことなのですから、当たり前のことを述べているに過ぎません。

事故が起こった時に、提供した介護職が個人として刑事責任を追及されないことが最低ラインだと思うのですが、威勢のいい言葉を述べる代表者に、いったいどこまで職員を守る責任感があるのでしょうか。

一般論として、世の中には能力が伴わないのに、できないことをできると明言し、責任を取らない人が世の中には存在します。介護を始めたばかりなのに「介護のリアルについて配信します」と大口をたたいておいて、結局はナッツを売っているような人も世の中にはいます。

ネットの記事にも好意的に紹介されるような人であれば、さすがに責任感を伴っていると思いたいと思ってはいますが、その判断は慎重に行いたいと個人的には思っています。

しかし残念ながら、個人の責任の保証について残念な発言が代表からあったと認識しています。

「たまたま喉に詰まったらドンマイ、お疲れさまでした!といいます」と発言されていたことです。

綿密なアセスメントや綿密な食事形態の変更を行うような施設で「たまたま喉につまったら」と言うような発言をされるのは、いささか残念かなと言わざるをえませんね。

利用者の生命、生活に安全配慮義務を負いながら責任をもつ事業所、職員に働く場を提供する事業所としての責任が、その言葉でずいぶん軽く感じられてしまいます。

記事も記事で、この件を取り上げるなら「その発言の真意は?」と問うくらい、あってもいいのではないでしょうか。

そして、事業所の運営が法的にひっかかることがあれば、その法を変えるべく動いていくという発言を代表はされています。

立法は、容易ではないことくらい経営者の感覚であればわかるでしょう。選挙に行っても政治家に陳情してもロビイングしても、法律は簡単に変えることはできない。

世の中の合意形成のプロセスを経て、法律が変わっていく。それには大きく強い力が継続して動いていかなければなりませんし、むしろ法が安易にコロコロ変わる世の中の方が、異常なのです。

この件の賛同者の介護関係者の中には「私たちが介護保険法なのです」という発言がありました。ここまでくるともう意味がわかりませんし、私たちが法を好きに解釈していいと言っているようにさえ思えます。法令順守の意識0。もう00です。

介護に携わるものであれば、「私たちが介護保険法」ではなくて、介護保険法の縛りを逆に強く意識しなければなりません。

昔、あるアニメの主人公が「俺がガンダムだ!」と言っていましたが、それと同じくらい意味がわからない。粒子化して攻撃を避けちゃったりするのでしょうか。

法と理念が対立していたとしても、まずは現行の法を遵守する意識が大事なはず。

法を遵守することは、自分たちを守るためにも利用者を守るためにも、大事なはずです。

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