介護保険料を払っていたら、施設に意見してもいい?

雪乃
雪乃

いつもありがとうございます。Twitterを見ていたら「介護保険料をみんな払っているが、ただ払っているだけなのはもったいない。介護保険料を払っているのだから、介護施設に意見したらいい」というツイートがありました。この件について本日は書いてみたいと思います。

介護施設に意見を言うことについて

介護の事業所はほとんどが民間で運営されています。収入のほとんどは介護報酬です。

その介護報酬は、利用者により7〜9割が介護保険から支払われています。介護保険のうち半分は被保険者が支払った介護保険料、残り半分は国、都道府県、市区町村の負担により賄われています。

そういう意味では介護の事業所というのは公的なお金で運営されている面が強いと言えるでしょう。

さて、ここで冒頭に紹介した「介護保険料をみんな払っているのだから、みんな介護施設に意見したらいい」というご意見ですが、公的なお金で運営しているのだからみんなが意見を言う権利は確かにあるような気はします。

そもそも介護施設、あるいは訪問介護や福祉用具の事業所も、地域の福祉に貢献するためにあるとも言えるのですから、みんなでそのあり方を考えていくのは悪いこととは言えないでしょう。

ですがこの意見は、みんなが意見を言うことのデメリットを過小評価しているように感じます。また介護の事業所は既に介護保険の縛りの中で運営しており、市町村などによる監督だって受けています。また地域福祉の充実のためにどうするべきか模索だってしています。その点は忘れるべきではないと思います。

そもそも「介護保険料を払っているのだから」という理由で意見を通すという発想は、ある意味危険だと思います。

介護保険料というのは公的なお金です。私のお金ではなく、公のお金です。であるならば、介護事業がどうあるべきかは、みんなで議論して決めるべきでしょう。介護施設に意見する、という文脈は私的な意見を通すというニュアンスが強いように見えます。妥当な意見や公共の福祉を踏まえた上での意見であれば良いのですが、個人的な願望が介護施設に寄せられるようであれば問題があると言わざるを得ないでしょう。

次に、公的な事業についての見解を述べてみましょう。

公的な意見や公的な議論について

日本、及び諸外国では、議会制民主主義によって政策という最も公的な部類の議論がなされています。

予算の決定なども議会の仕事です。

力を持つ個人や企業などが、政策に影響力を及ぼすことはままありますが、あくまでも議会を通して物事が決定されていきます。

政府や自治体は債権を発行して調達したお金や、税金なども一部使って行政や政策を執行していきます。

国民は税金を払っているからと言って、その意見がなんでも通るわけではありません。また本来は国民が議会に要望するのに、払っている税金の額は関係ありません。税金を払っていれば意見を述べていいのであれば、高額納税者の意見は小学納税者の意見より尊重しなければならないとなりかねません。しかし同じ国民として権利は平等であるべきだと思います。

たまに自分は税金を払っているのだから公務員の給料は自分たちが払っているとして、公務員に対して自分の意見を押し付けようとする人がいますが、あまり関心しません。

公務員は全体の奉仕者として仕事をして対価を公費から受け取っています。納税者個人に奉仕する人ではありません。

公務員の仕事が全体への奉仕から外れているのであれば非難に値するでしょう。行政が法律を無視して動くことも許されない事です。ですが何を以てそれを良くないと判断するかは、個人では難しい。やはりそこは議会による議論や司法の判断というものに委ねる必要もある程度あるでしょう。

民主主義は民意によって国が動いていくのだというのは間違いではありません。しかし、個人個人の意見をそのまま通そうとしても、それでは収拾がつきません。民意は議会というフィルターを通して、より公のものとして国を動かしていくものです。個人の意見というのは、大事ですが、なんらかの過程を経なければ採用できないものです。

みんなの意見をそのまま言ったらどうなるか

「介護保険料を払っているのだから」そんな理由で述べられた意見には、傾聴に値するものもあるでしょうが、介護事業所の事情を無視した意見も多そうな気がします。

利用者サイドと事業所サイドで見解の相違だって日常的に起きています。

例えば専門職の目から見て嚥下機能が低下している方に、ご家族が「うちの親はちゃんと食べられるはずだ」とそのまま口から食べさせてしまうことがあります。

しかし、食べるということは一般の方が思っている以上に難しい事です。だからペースト食やトロミ剤などが使われている。

誤嚥性肺炎のリスクなど、なんど説明してもご理解して頂けない家族もいます。それを理解した上で「好きなものを食べさせてください」と言われる方は良いですが、理解できずトラブルになってしまうことだってあります。

実際に利用者以外が意見を述べるようになったら、他にもテレビで観たユマニチュードなどの技法を万能視して現場に押し付けようとしたり、施設が利用者の自由を奪っていると極論を述べたり、「好きなものはむせない」と根拠不明な意見を言ってくる人だっているかもしれません。

もちろん、介護施設は周囲からの意見を無視せよと述べているわけではありません。首肯するべき意見だってあるでしょう。

しかし、無理難題が押し寄せてきそうな気がするのが気がかりです。

また「介護保険料を払っているから」というのは、あくまでも公的な事業を行う介護事業を維持し、社会が便益を受けるための当然の責務を果たしているに過ぎないという認識だって必要です。横柄な意見につながりかねない安直な物言いだと感じました。

地域と介護事業所の歩み寄りや対話は必要だと思うのですけどね。

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