『困難事例②』

介護

「こんにちは。ケアステーション柏の松原です」

「こちらへどうぞ」

地域包括支援センターの会議室へと案内されている。

今回の困難事例、立山さんの支援には地域包括支援センターの関わりがあった。

地域ごとに設置され、介護に関する相談窓口の役割を備えている地域包括支援センターは、困難事例を担当するケアマネのバックアップも行っている。

立山さんのケアマネ交代に伴って、サービスを提供する事業所と包括、前任ケアマネと私でケースカンファレンスが行われることになった。困難事例だからってここまでするのは聞いたことがないが…

いや、ケアマネが数ヶ月に1回で交代するという時点で普通ではない。対応が難しいケースをまとめて困難事例と呼ぶが、よく考えたら難しさもいろいろあるよな。

扉を開けると、前任ケアマネと包括支援センター長が話しあっている。小阪主任の姿もそこにはあった。立山さんはヘルパーを何度も交代させていて、1つの事業所では対応できない。3つの事業所で分担してサービスを提供していた。

他に、福祉用具と訪問看護を利用していて担当者がそれぞれ参加。往診と薬局からの薬の配達を利用しているが、そちらは参加なし。

これだけの事業所を利用していると、意思疎通や書類のやり取りだけで大変なことになるな…。考えただけで気が重かった。

−−−−

初回訪問の日、包括のセンター長が同席することになった。

前任のケアマネは来訪を拒否されているので同席はなし。

「何かあったら私達もサポートをしますから」

そうセンター長は言ってくれた。ケアマネが何度も交代するものだから、誰かが継続して関わっていないと状況を把握できない。

しかしセンター長の言葉はありがたいが直接訪問して矢面に立つのは私…ということになるのだろうな。いや、ヘルパーや訪問の看護師にも無理を言っているのだから、私も覚悟を決めなければ。

いろいろな想いが頭を駆け巡る。私達はガスメーターの扉を開けて、キーボックスから鍵を取り出した。玄関まで自力で行けない立山さんに了解を得て、鍵はキーボックスに収められている。

インターホンを鳴らし、鍵を開ける。立山さんはインターホンに応対することもできない。廊下を通り、ドアの前でコンコンコンとノックをする。

「はーい、どうぞ」

と中からはっきりとした声が聞こえた。

「失礼します」

車椅子の女性が私達を待っていた。

−−−−

立山さんは笑顔だった。どんな人なんだろう、入った瞬間に怒鳴られたりするのかと思っていたが、そんなことはない。

気に入ったヘルパー相手にはニコニコしているが、気に入らない相手だと悪態をついて手がつけられないのだと聞いていた。今は私を品定めしている段階なのだろうか。

「はじめまして。ケアステーション柏の松原と申します」

「若い人が来るって聞いてたけど、本当に若いのね。これからよろしく」

ここまではっきりした口調で話す人は久しぶりかもしれない。

「若い方と話す機会なんてそうそうないから、嬉しいわ」

「私もお会いできて嬉しいです」

−怖がってはいけない。直感とでも言うのだろうか。内心ではヒヤヒヤしたものを感じてはいるのだが、努めて動揺を見せないようにしよう。

丁寧、且つ理知的な対応を心がける。これが立山さんとの最初の出合いだった。

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