『看取り①』

介護

私はアドレス帳を開き、いつも頼んでいる介護タクシーの番号を探す。車椅子を持って来てもらっての対応を頼まなければ。

電話をかけるとすぐにつながる。

「お世話になります。ケアステーション柏の松原です。車椅子ですぐに対応して頂きたいのですが、動けますか?」

私は手短に利用者の住所と行き先を伝える。湊記念病院は隣の市にあるが、この利用者に何かあった場合はこの病院で対応してもらうよう確認していた。

水嶋さんは10年ほど前、胃ガンの手術を受けていた。それが最近になって転移しているのが発見された。

既に進行しているし、積極的な治療は望めない。妻に先立たれ独り暮らしをしていた水嶋さんは、腰痛もあり介護保険を申請していた。

申請代行からその後のサービス調整を担当したのが私だ。もうかれこれ2年くらいの付き合いになる。

今回は近くに住む娘さんからの連絡だった。ガンの転移が発覚してから、娘さんは心配して頻繁に通っている。

今回はその娘さんからの緊急連絡だ。食事がとれなくなり、徐々に体力が低下していた水嶋さんは、その日娘さんが訪問した時にぐったりとしていた。

受け答えはできるが、椅子から立ち上がろうにも力が入らないという。すぐに救急車を、と焦る娘さんを水嶋さんが制した。問答の末、すぐに受診するということで私のもとに連絡が来たのだ。

娘さんからの要請、ということで私は介護タクシーを手配する。費用に関しては了承済みだ。

「ワシは入院はしたくない。できるなら最期まで家で暮らしたいんや」

娘さんがいないところで、水嶋さんは私に言った。「訪問看護師と私も同席しますので、一度娘さんと話し合いをしましょう」私からの提案に水嶋さんは同意した。

…ここのところ体力の低下が著しい。ガン末期は一度低下し始めたら短期間で急激に低下する。水嶋さんはこのまま入院することになるのだろうか?少なくとも娘さんは入院を希望するかもしれない。

そうこう考えているうちに娘さんから連絡が来た。結局、入院することになったらしい。湊記念病院は、以前に水嶋さんのガン手術を担当していて、これまでの経過を把握している。

今後の方針は医師の意見を踏まえて、話し合いの場がもたれるだろう。自宅で過ごしたいと私に言った水嶋さんだが、人の気持ちは変わるものだ。ターミナル期は特に。

水嶋さんと娘さんは、どのような結論を出すのか…

何があっても対応しなければと思い、私は病院に情報提供する資料を作り始めた。

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