先日も緩和ケア医師の大津秀一氏の動画を紹介させていただきました。
今回は、がんと闘病する有名人に対して、医療否定論をすすめる人についての解説動画です。
ツイッターでも大津氏の動画をリツイートさせていただきましたが、ブログでも紹介させていただこうと思います。
ちなみに、私は問題の元動画を観ていません。解説の内容から動画の内容がほぼ見当がつくからです。医療否定、抗がん剤否定論はだいたい内容が同じで、似たようなことを言っているからです。
抗がん剤否定論のどこがおかしいのか
大津氏のツイートと動画から、抗がん剤否定論の疑問点を抜粋します。
主張①:がんによる死亡数は増えている。抗がん剤に効果はなく、抗がん剤の副作用によって人が亡くなっているのだ。
反論:がんによる死亡数が増えているのは、がん以外で亡くなる人が減り平均寿命が延びているからだ。がんによる死亡者数を平均寿命の推移を考慮した年齢調整死亡率で検討してみると、がんによる死亡率が高くなっているとは言えない。
また、笠井アナウンサーのがんは悪性リンパ腫とのこと。リンパ腫などの血液のがんには抗がん剤が有効で、胃がんや大腸がんなどの固形がんに比べて血液のがんに対する抗がん剤治療の治療成績はよいとされている。動画では日本人だけが抗がん剤を大量に使っているかのように指摘されているが、そのような事実はない。
主張②がんは糖質が好物である。糖はがんの栄養になってしまうので、がん患者は糖を摂取してはいけない。
反論:確かにがんは糖をエネルギーにしているが、それはがんではない正常な細胞も一緒。糖質を取らなければ体力が落ちてしまい闘病できなくなる。また、糖質を制限することが治療として有効であるという根拠は、今のところない。
がんになった時は『標準治療』が基本です
ネットでも書籍でもがんに関する情報が溢れています。悩ましいことに、怪しげな民間療法についての情報も多くあります。
がんになった時は『標準治療』を受けるのが基本です。標準治療とは、さまざまな種類のがんに対して最も治療の成績が良いとされている治療です。
標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいいます。
一方、推奨される治療という意味ではなく、一般的に広く行われている治療という意味で「標準治療」という言葉が使われることもあるので、どちらの意味で使われているか注意する必要があります。なお、医療において、「最先端の治療」が最も優れているとは限りません。最先端の治療は、開発中の試験的な治療として、その効果や副作用などを調べる臨床試験で評価され、それまでの標準治療より優れていることが証明され推奨されれば、その治療が新たな「標準治療」となります。
参照:がん情報サービス 用語集 https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/hyojunchiryo.html
怪しげな民間療法をすすめる人は、既存の医療を否定し、自分が勧める治療こそ最高だと言いますが、それが本当に根拠のある治療ならちゃんと標準治療に組み込まれます。
民間療法で死期を早めたと思われる有名人
アメリカの大企業、アップルの共同創業者のスティーブ・ジョブズは膵臓がんで亡くなりました。
ジョブズ氏は膵臓がんを告知され医師から標準的な医療を勧められますが、ジョブズ氏はこれを拒否。ハーブを使った民間療法を頼ります。
しかし体調が悪化し、民間療法をやめて通常の医療を受けることを選びますが、その時にはがんが進行してしまっていて手遅れになっていたと言われています。
スティーブ・ジョブズほどの有名でお金もある人なら、質の高い情報に容易にアクセスできそうですし、高額でも効果のある治療を受けられそうなものです。
そんな人でも根拠の乏しい民間療法に頼ってしまうのですから、一般の人が通常の医療を否定しても、本当に効果のある治療法にたどり着ける可能性はほぼ皆無と言ってもいいのではないでしょうか。
アメリカの研究機関の調査によると、従来のがん治療を受けず代替医療のみを受けた人の死亡率は2.5倍にもなると言われています。
さくらももこさんも民間医療を受けていた
漫画家のさくらももこさんも乳がんで亡くなりましたが、一度は通常の医療を受けたもののその後は民間医療で治療していました。
民間療法を受ける自由はありますが、残念ながら今のところ民間療法に根拠のある治療はないと考えられます。治療効果があればそれはもう民間療法ではありません。
一度は抗がん剤や手術を受けられたものの、抗がん剤の副作用が辛かったというのは理解できます。
確かに抗がん剤の副作用で苦しまれる方はいますが、それは治療の一つの面でしかありません。副作用があまりなく、治療に耐えて元気になられる方もいます。
ある医師が語った80代の女性の例ですが、その女性はステージ4で胃がんが発見されました。この段階であれば完治はほぼ望めません。
その女性は医師との相談で抗がん剤治療を開始し、食事が摂れない段階まで進んでいたがんが縮小し、女性は再び自宅で食事が摂れるところまで回復されました。
その後は抗がん剤が効かなくなり、再びがんが大きくなり始めましたが、そこで抗がん剤治療を終了し亡くなられました。
このケースではがんを完治させることはできなかったものの、食事が摂れないまで進行した病状がいったん回復し、限られた時間でも再び在宅生活を行うことができたことに意味があると思います。
抗がん剤は辛い副作用だけではなく、治せなかったとしても余命を延ばしQOLを改善するという面もあります。
がんがどこまで進行しているのか、治療にどこまで期待するのか、医師としっかり相談して医療を受けることががん治療において重要です。
民間医療は往々にして患者に過度な期待を持たせ、さんざん効果のない治療をして手の施しようがなくなったら「病院に行きなさい」と平然と言ったりします。信じがたいことですが本当にある話なのです。
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患者さんのわらにもすがりたい気持ちに付け込む民間療法が多く、また善意から民間療法を押し付ける方も実際におられます。
しかし、通常の医療を受けることを選択した患者さんに対して、善意の押し付けをされる方に対しては「それは違うだろう」という思いでおります。
がんについてどのような治療を受けるべきか悩まれている方はがん情報サービスを検索されるか、お住いの地域のがん拠点病院を頼られるのがいいかと思います。
正しい情報が患者さんのもとに届くように願っております。
コメント
[…] (@shuichiotsu) December 31, 2019 がん患者に忍び寄る民間療法 […]